奈良国立博物館、通称「奈良博」では年に1回、激アツのイベントを催されています。
それが、今回お邪魔させていただきました「文化財保存修理所」です!
国や地方公共団体が所有する文化財を修理するところで、京都国立博物館に日本初の文化財保存修理所ができて以来、2番目の文化財保存修理所です。
ちなみに、日本初が京都で、1980年。2番目の奈良は2002年の設立です。
令和3年1月1日現在の数字を、文化庁のホームページから拾ってみました。
ちなみに、国宝の体積は奈良がNo.1!…という奈良推しすぎな私。
これらの中でも特に歴史の古いさまざまな文化財を抱える奈良の文化財修理です。
気にならない訳がないですよね?
まずは「彫刻」「絵画・書跡」「漆工」のパート毎に担当の学芸員さんから興味深い話を伺って、実際に作業をされている場を見学させていただきました。
”文化財の保存修理において大切なこと”をお話されている中で、特に感銘をうけたのが、「可逆性」のお話です。
ものすごく古い歴史を有する文化財が、さまざまな環境を経て現在の修復が必要な姿になった、というストーリーに基づいて「ただ直しゃイイっしょ」という話では無いのだそうです。
例えば、とても損傷の激しい木造の仏像があるとします。
木工用ボンドや瞬間接着剤でガチっとくっつけてしまうと、次に修復が必要になった場合、その接着部分が変質してしまっていたら、、、ガチっと固まってて取れないので切断しないといけなくなったら、、、大変ですよね。
なので「可逆性」と言って、いつでも、その修復前に戻せるような材料(伝統的な素材で作られたもの)で作業されるんだそうです。
なんか感動しました。
現時点の最先端が、未来の最先端の邪魔になるかも知れないって、文化財の将来は奥深いなぁ、、、って。
解体の実績があるお像・部位に限って、解体して以前の修復後に出来たひずみや劣化(漆がガビガビになってきたり等)を修復されます。
木造のお像が多いので、湿気が上がってきて足元がぐらついてきてはる仏様は、補助の台座をいれて安定させたりするのですが、その際も、きちんと周りの色調と合わせて補色されるんです。
こうやって解体された時、以前の修復時には発見されなかった「何これ?」っていう新発見があったりもするそうで、聖徳太子南無仏立像の合掌されている部分をつなぐ”ほぞ”の中から舎利(とみなされる鉱物質の小さい粒)が墨書のある紙に包まれて、さらに錦で包まれて納められていたのが見つかったんですって。
なんかワクワクですよね。
ちなみに、吉野の金峯山寺の仁王さん達は、こちらで約2年にわたって大手術をされていたそうです。
特に屋外におられる仁王さん達は足元がぐらついてはりそうやし、大変だったでしょうね。
私が拝見した時は、すでに修復が終了し、白い清浄な布でくるまれて休んではりました。
2月23日から奈良博の「なら仏像館」で会えるそうなので、超絶楽しみです!すぐ会いに行こう♡
装潢(そうこう)修理技術といって、紙や布に描かれた美術品を染色や紙を貼り足したりしながら修復されるんだそうです。
装:形(表装)に仕立てる
潢:紙に染める
という意味だそうで、まさに掛軸状のものが多いんです。
気も遠くなるような作業…
仏表具(仏さんが描かれた掛軸状の絵)って、実際に描かれた紙や布の裏に「肌裏紙」「増裏紙」「総裏紙」の3層になっていて、それに水を含ませてピンセットで丁寧に除去するんですって。
ひぇ~~~ですよね?
作業を見せてもらいましたが、ホンマひぇ~~~~でした。
技術者の方々の気迫のみなぎった集中力に見とれました。
薄くなったり破れていたりするところは、紙漉き場があって、そこで紙を漉いて切って貼ったりされるんです。
しかも、新品すぎたら周囲とトーンが合わないので、わざとダメージ加工を入れたりするんですよ。ホンマ、すごい!
そのあと、再度3層の裏打をするのですが、なんと、ここにも奈良のスゴさが!
裏打加工
1枚目:肌裏打ち ⇒ 美濃紙
2枚目:増裏打ち ⇒ 美栖紙(奈良産)
3枚目:総裏打ち ⇒ 宇陀紙(奈良産)
3枚中2枚も、奈良の和紙!!
重要な文化財には無くてはならない存在、それが奈良の和紙!!
器物の素地(木製が多い)の表面に仕上げ材として漆を使用したもので
仏具、神饌具、生活用品、武具、などなど。
仏像も乾漆像って言って、漆を塗っていたりしますもんね。
〇 防水・防腐性に優れていて、堅牢生が高く、接着力が強い
× 紫外線と乾燥に弱い
艶々していて、ザ・高級感のあるトップコート!だし、日本の文化財にとっては大敵ともいえる湿気にも強い、けど、長持ちはしないんですよね。
なので、この修復も大変だし、対象物が多そうです。
とても痛々しいまでに剥離が目立つお像を細やかに丁寧に修復なさって、見違えるようにお姿が戻られているのを拝見するに、感動が蘇りました。
別の日にも、文化財保存に関するお話で”調査する”方も聞いてきました。
文化財を傷つけないよう出来る限り非接触で調査されるんだそうです。
この箱にある文化財を触れないで調査して、なんていうお話。
その時に使うのが、光やX線たち。これらで素材を調査されるのです。
特に面白かったのが、”色”のお話。
顔料と染料があって、特に鉱物性の顔料が楽しかったんです。
例えば、「赤色」「緑色」「青色」は何から出すか?とかいう話です。
ちなみに、赤の3種類は、こんな感じ
・朱: 水銀(Hg)は朱色の赤
辰砂(しんしゃ)という赤い粉は、 HgS(水銀と硫黄の化合物)
・ベンガラ:鉄(Fe)は暗めの赤で、虫よけの効果もあるんですって
・丹(たん):鉛(Pb)はピンクがかった赤
銅は、同じ(Cu)なのに、緑も青も作りだします。
・緑:緑青(ろくしょう)で、鉱物としては孔雀石。Cu2CO3(OH)2
・青:群青(ぐんじょう)で、鉱物としては藍銅鉱。Cu3(CO3)2(OH)2
ほら、化学式が似てる!!
あと、粉砕する細かさ(粒子のサイズ)で色が変化するんですって。
ちなみに、青は藍銅鉱からも採れるし、ラピスラズリからも採れます。
でも、どっちにしても非常に高価で、金と同じ価格で取引されていた時もあったそうです。
そう思うと、、、金峯山寺の蔵王権現さんって、、、
私は奈良博の講座がめちゃくちゃ好きです。
学芸員さんの造詣の深さに痺れるのも然ることながら、皆さんが用いられる専門用語のような堅めの言葉と話している対象(文化財など)への深い愛情が高次元で昇華されていて、もう、表現が優美なんです!!
めっちゃ勉強になるんです。(ほら、もう表現が薄い)
例えば、「濃密な色彩で描かれている」って!
「濃密な色彩」って、めちゃくちゃ雰囲気が伝わりやすい表現ですよね!
ほかにも「面目を一新している」って!
修復されて、「すっかりキレイになりました♪」ではなく、面目を一新!
こういうのをサラっと使える人になりたいのですよねー…
あとね、お心遣いの方も素敵なのです。
博物館の人なので、信仰の対象に対する崇敬は必須ではないと思うのですが、文化財としての価値だけではなく、昔の人々が信仰の対象として崇めてきたお像や絵画をとても愛情深く扱ってはるんやろうなぁ、、、って伝わってくるんですよ。
例えば、仏像は解体されてから修理に移られるという話をしました。
状態によっては修理中に倒れた状態にされたり、いろんなパーツにバラバラにされたり、いわゆる「まさに手術中」のような姿を一般公開するのは気が引ける、というコメントをされていて、その時に「仏像の傷ましいお姿を人目に触れる状態に…」という風に話されていたんです。
”傷ましいお姿”って、表現が出てくる時点で大切にされているし、心を寄り添わせてはりますよね?
そういうところも、大変勉強になるのです。
そんな訳で、「そんなん知って、何になるん?」ってよく聞かれますが、国語の勉強と知的好奇心を満たすべく、これからも奈良博に通います!
とか言っててタイミング最悪なのですが、奈良博は明日から次回特別展への準備に入られます。
奈良博に行きたい熱をじわじわと温めておいてください。
次回特別展は、2月6日(土)~3月20日(日)
「お水取り」と「帝国奈良博物館の誕生―設計図と工事録にみる建設の経緯―」です。
https://www.narahaku.go.jp/exhibition/special.html
仏像館も現在は金峯山寺の仁王さんをお迎えする準備で閉館中で、2月23日(火・祝)に再開です。
https://www.narahaku.go.jp/exhibition/kinpusenji_20201124.html