奈良の秋の風物詩と名高い正倉院展は、年に1回開催されて今回が73回目にあたります。
もともとの歴史的な話については、別ページ(「よみがえる正倉院宝物」のレポート)で触れていますので、よかったらご一覧ください。
奈良博が概要などを説明されたページもありますので、そちらもどうぞ→ 奈良博公式ページ
会期:2021年10月30日(土)~11月15日(月) ※会期中は無休です
開館時間:9:00~18:00(金土日祝は20:00まで)入館は各1時間前まで
今回も入館時間指定の予約チケットが必要です。
(ローソンチケット→Lコード:57700 )
一般:2,000円
高校生、大学生:1,500円
小学生、中学生: 500円
※メンバー割引などは、別途ご確認くださいね
ポスターにもバシバシ出てきている弦楽器で円形の胴が印象的な「聖武天皇遺愛の品」です。
胴の背面に施された螺鈿細工が見事!!
インコが連珠をくわえているようなモチーフで、こういう「鳥が草花や珠などをくわえている」デザインはササン朝ペルシャで流行したものらしく、シルクロードの香りが漂うエキゾチックで不思議な魅力を醸し出します。
こういう細かくて小さな細工が大好きすぎる私は、ここで暫くうっとりします。
聖武天皇の御后さま、光明皇后(正倉院宝物を献納されたご本人)による自筆の御書です。
これは「自筆なんやって!すごい!」だけではなく、東大寺に聖武天皇ご遺愛の品を献納された際のリスト『国家珍宝帳』のすごく前の方に記載されている品なのです。
ちなみに、国家珍宝帳の一番最初に来るのは、聖武天皇のお袈裟です。
聖武天皇は太上天皇であり、授戒もされている在家のお坊さまでもあったんですよね。なので、お袈裟も持ってはりました。(ちなみに、何年か前に出陳されていたのですが技術の限りを尽くしたうような糞掃衣!っていろんな方向から驚きの品でした)
そして二番目に来るのが、ひいおじいさんにあたる天武天皇から代々譲られてきたお厨子(赤漆文欟木御厨子/せきしつぶんかんぼくのおんずし)!
その次に書いているのが、下記の御書四巻なのです。
お厨子に入っていた「御書箱(おんしょのはこ)」に入れられていました。
皆さんも何かをリストアップする時、思い入れのあるものから書いていきますよね?
同様に、国家珍宝帳も意味のある順番でリストアップされたと思うんです。
なので、この三番目に書かれていた(いや、むしろ二番目に書かれていたお厨子に入っていたのだから、二番目で良いのかも?)という時点で、思い入れがだいぶ強いんです、きっと。
ヤバ、、、この勢いで書いてたら、読むのシンドイですよね?
でも続けちゃいます。
この杜家立成は、当時の中国で嗜みとして臨書(字や文が上手い人の書を書写して手習する)されていた教材のひとつで、それを光明皇后が書写されたものが残っている、という話なのです。
内容は、スマートに文を遣り取りするには、こういう時にはこういう風に書けば良い、的な文例集です。
その「杜家立成」を見ていると、何枚かの紙が貼り合わさって長い巻物になっているのですが、それぞれの色のついた紙がきれいなこと…
そして、最初はキチッキチッと楷書で書かれているのですが、途中からオリャーーー!!みたいな勢いでガンガン書かれているのが目に浮かぶようなノリノリの行書体になって、心なしか文字も太めになっていて、なんかめちゃくちゃチャーミングなんです。
もしかしたら、臨書というよりは、内容をコピーしておきたかった、ということなのかも知れないですね。
で、書かれている文例に、心なしか”飲みの誘い”が多くて、クスっと笑えました。
光明皇后に飲みに誘われたら、どんな気持ちなんですかねー?
杜家立成の中でも、特に私が心から好きなのが「積善藤家」の印。
蔵書印みたいなものです。”善行を積む藤原家”という意味。
そのフォントが可愛いの何の…
そして、藤の字が「糸」の藤です!!
藤の右下の部分って、水のような字ですよね?
でも、光明皇后が”藤”を書かれるときは糸の藤なんです。
天皇家に嫁いでも実家の藤原家を思って印を捺す、実家想いの皇后さまだったんですね。
そんなことにも思いを馳せると興味深いです。(けど、めっちゃ時間かかります…笑)
しかし、なんでこんなに斜めって捺してあるんだろ…気になる…
ちなみに、御書箱(おんしょのはこ)も出陳されています。
国家珍宝帳には白葛箱って書かれていますが、これらの御書が入れられていた箱です。孝経は、どこに行ったんだ…
アカン… ボリュームが過ぎてきた。
さ!! じゃんじゃん行きます!
本当に素晴らしい。瑠璃=ガラス、です。
よく土の中から出てきたガラスって白く濁っていますよね?
正倉院宝物のガラス製品がこのように透明であるのは、きちんと倉庫(正倉院)に保管されていたから。
これって奇跡の連続のようなことなんです。
千年以上も前に、中央アジアから何か(ラクダ?)に揺られて地球3分の1周もの距離を越えてきただけでも既に奇跡なのに、地震に壊されず、火事にも焼かれず、きちんと形を留めて残っているって、感動しますよね!!
吹きガラスの技法で作られたものだそうで、細かな気泡が入りながら回された形跡を物語る横に伸びた泡の跡。
こういうのもデザインの一種のようで、とても素敵です。
フルーツ置きたい。
献物をのせる台なので、東大寺にお参りされる時にお供えをのせるために使われたのでしょう。
めちゃくちゃ豪華な彩色がされているのですが、実は…
展示されている姿を見ると分かるのですが、このエメラルドグリーンのような几の彩色は、献物をのせる面には豪華な布がのせられるので、トップの彩色は見えるかもしれない縁のところだけが施されているんです。(トップ全面は彩色されていないんです)
あと、奈良時代の色料(顔料や染料など色をつける材料)のお話を聞きに行った時に言ってはったんですが、使われた顔料を詳しく見ると、トップ面の縁には側面のものとは若干色味が違うエメラルドグリーンで彩色されているんですって。
きちんと豪華に見せる最善は尽くすけど、無駄に良い顔料を使って、見えないところまで塗ってしまう…というような作り方ではなく、コスト意識も尊重しながら、きちんと作られていた努力のようなものも伺えて、「贅の究め方」が素敵♡
お香を焚くための台です。
それはもう絢爛豪華な彩色が施された一枚一枚の花弁も美しいし、蓮華の形に形成された全体像も本当に煌びやか。
蓮華の花弁に描かれているのは、宝相華や鳥など様々ですが、その中でも注目なのは「迦陵頻伽」です。
迦陵頻伽(かりょうびんが)とは、上半身が女性で下半身が鳥の姿をした、それはもう美しい声で歌う極楽浄土にすむ鳥(人?)です。
迦陵頻伽は、山岸涼子先生の漫画「日出処の天子」にも表紙に登場していて、見ているだけでうっとりしそうなその様は、美人でえぇ声という… 羨ましい限りです。
これで焚くお香も美しい花のような成型をしてから焚くという、とても優美な御物です。
あぁ、これにもフルーツのせたい。
ほかにも、いろいろあるのですが、今回は文房具が多くて非常に興味深かったです。
光明皇后が杜家立成を書かれた筆も、こんな太かったん?へぇ~・・・とか、
相模国と安房国の国印が可愛すぎてたまらん・・・とか、
「下痢で遅刻してごめんなさい。落ち着いたら行きます。」の書とか、
「こんなにたくさん写経したので、新しい筆を支給してください。」の申請書とか、
シルクのアームカバーで袖を汚れるのを防いだって、じゃ、何を着てるん!!??・・・とか、
青斑石硯(せいはんせきのすずり)の木画(木の小さなパーツを組み合わせて柄を出す技法)がたまらんっっっ♡・・・とか、
もう、書き出すと止まらないので、これぐらいにしておきます。
ミュージアムショップ、今年も品揃えが素敵で危ないです。
笛吹襪(楽舞用の足袋)をオマージュしたソックスとか!!
アカンやん!すぐ買ってしまうやん!!
しかも、カレンダーの2月の写真が、この襪。
2月に、このソックスを頻繁に履くの、今から楽しみやん!!
こんなに長い偏愛レポートを読んでくださったあなたは、きっと正倉院宝物の大ファンに違いありません。
もしも、まだ正倉院展に行かれていないようでしたら、是非、スマートフォンのアプリ「聴く美術館」で正倉院展のオーディオガイドをダウンロードしておいてください。
アプリは610円で、現地でのレンタルは600円と価格の違いがありますが、スマホだと完全に自分のイヤホンを耳の奥までねじ込んで周りのざわざわをシャットアウトできますし、なんならダウンロードした直後から予習ができますし、「音声菩薩の音色」をイメージした音楽も入っていて、とても素敵です。
予約時間に入場となっていますが、会場前でも少々並ぶことになります。
その時、優雅にこの音楽を聴きながら、気持ちを̝̝高めていって、会場に臨場なさってください。
では、楽しい正倉院展をお過ごしくださいね。